鮮やかに。燃えるように。赤く、紅く。すべてが染まっていく。
夕闇灯籠
「ああっ、はっぅ…」
挿入された衝撃で崩れ落ちそうになる体を、沖田は腰を掴んで引き寄せた。
汗で滑る腰をしっかりと持ち腰を打ち付けると甲高い嬌声が上がる。
「はっ、あぁぁ」
「随分と慣れたモンですねィ」
「っ、…うっ」
「ああ、声聞かせてくだせェよ」
目は嫌だと訴えていたが見なかった振りをして、閉じられた口に指を突っ込む。
開きっぱなしの口からは際限なく涎が垂れ、布団に吸い込まれていく。
色々なものを吸い取ってぐっしょりと濡れた布団を、藁に縋るかのように手が掴んでいるのが見えた。
沖田は一旦動きを止め、四つん這いになった土方の上に被さり、耳元に口を近付けた。
「俺ァ、好きなんですゼ、土方さんの声」
「っふ、う…?」
「淫らで絶望に満ちた声。しかも知ってるのは俺だけ。本当、ゾクゾクしまさァ」
「ッ…!」
瞳に怯えが走ったのが見え、反射か彼の右手が一つ分前に出た。
右手はそれ以上動くことはなく、布団を掴むこともしなかった。ただ小さく震えるだけで。
歯がかちかちと音を立てるのが聞こえる。顔からは血の気が引き、目は何も映していない。
はぁ、と溜め息を吐くと口が僅かに動くのが見えた。
可哀相に。ライオンに囚われたシマウマのようじゃないか。
「まァた逃げようとしたんですかィ?」
「ちがっ、違う…!」
必死で否定する顔は無視して、背中に視線を落とす。
あちこちに小さな刀傷が付いて、皮膚が引き攣っている場所もある。
御用改めの時の乱闘やらで付いたのだろう。
「…俺のモンだって印付けときゃ、忘れやせんかィ?」
「しるし?」
見る度に、アンタが俺のモンだって思い出すように。
左手は腰を支え、右肩にそっと右手を添えて。
引き裂いた。
「うあああッ」
右肩から斜めにまっすぐ引かれた赤い線。
白い肌とのコントラストがとてもキレイだ。満足して濡れた右手を舐める。
「アンタは俺から逃げようとした。でも俺は逃がさない。アンタを絶対に逃がさない。だからアンタは、俺からずっと逃げられない」
呪いを掛けるかのように繰り返せば、働かなくなった頭は簡単に了承する。
こくりと頷いたので、頬を伝った涙を舐め取ってやる。舌から伝わるしょっぱさが体に心地いい。
どこを見ているんだか分からない焦点が合っていない瞳は、死んでいるようだ。
つまんねェ。俺は死体が欲しいわけじゃない。
頬から口を離し、背中に付いた血を舐める。口元は真っ赤に染まっているだろう。
吸血鬼に間違われたりして。馬鹿げた考えに笑いながら傷口に舌を這わせ、歯を突き立てた。
「ああっ、あ…ぁ…」
痛みで震える手がもがいて力の限り布団を掴む。強く握り過ぎて血が止まりそうだ。
まぁ、こっちで止まったら配分的にいいかもしれねェなァ。
声もなく体を揺らして笑うと口から血が零れて落ちた。
血を飲んだり、人肉を食う趣味があるわけじゃない。ただ、苦しむこの人が見たいだけ。
「土方さん、愛してまさァ」
溺れる者は藁をも掴む。
「だから、俺の傍からいなくならねェでくだせェよ」
藁なんて掴まずに、さっさと溺れちまえばいいのに。