※ミツバ編後の沖土です。前提として土ミツが入りますのでご注意を。
また、性的、暴力描写が描かれますので、苦手な方はご遠慮ください。





愛していた人を亡くしてこんなに辛いのなら、愛している人を亡くしたら、俺はどうなってしまうのだろう。








あの光は、今何処へ。





「土方さん、俺の頼みごと聞いてくれますかィ?」

頼み、という単語に疑問を感じたけれど、珍しく総悟が頼ってくるという状況で、すぐに頭を縦に振った。
神妙な顔からすると、真選組に関わることか――それとも色恋沙汰か。
総悟ももう十八なのだからそういった話もおかしくはない。
昔に筆下ろしに楼に連れて行ったことはあったが、特に噂が流れて来ないのを見ると、あまり行っているわけではないらしい。
自己中心的な性格だから他人に合わせるのが苦手なのは分かるが、もう少し生き易くすればいいのに、とたまに思う。

もちろん、そんな話でないのは分かっている。
十八の少年が浮かべるべき悩みを総悟も思い浮かべていれば、普通の生活に少しでも戻れるかと思う自分の身勝手な願いだ。
普通の生活に戻れなくしたのは、俺だというのに。

「……アイツのことなら、謝らねェぞ」

沖田ミツバ。
病気がちのせいで白い肌でありながらも、光の加減によって金色に輝く髪を揺らしながら笑う、おしとやかな女だった。
幼少に親を亡くし、一人で総悟を育て、その小さな肩に重荷を乗せて来た。
総悟は少しでも少なくしようとミツバのためになることなら、出来る限りのことをやった。
お互いを思いやる姉弟でミツバの前では総悟もただの子供に見えた。

壊したのは俺だった。
謝りはしない、後悔もしていない。これでよかった。
けれど時々思う。本当にこれでよかったのかと。
暗示のように唱え続ければよいことになるのだと思っていたのに。

最期の時、アイツは幸せだったのか?

「…終わったこと穿り返すのはやめましょうや」
「……悪ぃ」

総悟の微笑む顔を見て、やっぱり姉弟だと実感する。笑った顔がよく似ている。
ああ、もう終わったことなのにまだ踏ん切りが付いていないのか。似ている所を見つけようとしてしまう。
心の内を占めていた割合に、大切さに気付くのが遅過ぎた。

煙草を口に咥えてふぅ、と細く長く煙を吐き出した。
普段ならば文句を言うだろうに総悟は何も言わないで俺の返事を待っている。
もやもやと広がっていく煙が自分の心のようで、土方は煙草を灰皿に押し当てた。

一番辛い奴に慰められるなんて不甲斐ない。総悟を支えるのが近藤さんや俺の仕事だというのに。
気丈に振舞う総悟を見て、土方は普段ならば絶対に口にしない言葉を出した。

「で、頼みってのは何だ」
「おや、聞いてくれるんですかィ?」
「何だその意外そうな顔は。珍しく俺が下手に出てやってるんだ、今回ぐらい素直に甘えとけ」
「土方さんが優しいと気持ち悪いですねィ」
「ッ、それ以上言ったら聞かねェぞ」

今まで散々奪って来た。故郷を、唯一の家族を、帰る場所を。
遅いとは分かっているがせめてもの報いに、総悟が望むものがあるのならば、くれてやってもいいと思った。
刀でも、家具でも、食い物でも。お金で解決出来ないものであってもいい。
何であってもいい。総悟が少しでも楽になれるのなら、幸せになれるのなら。

「あ、副長の座ってのはなしだからな」
「…本気でんなこと言うと思ってたんですかィ?」
「お前だったらありそうだろ」

不貞腐れながらもふっと柔らかくなった表情に安堵の笑みを浮かべてしまう。
やっと調子戻って来たみてェじゃねェか。
もちろん総悟がこの場でそんなふざけたことを言う筈がないと分かっている。
けれど、もし総悟がそう言ったのなら、俺は了承しただろう。

「………本当に、聞いてくれるんです、よねィ」

まっすぐに向けられた水色の瞳には心配と不安が揺れ動いていた。
何を願うのかなど知りはしないけれど、総悟が強く、強く願うのならば、俺は願いを受け入れよう。
例えそれがどんなに無茶で理不尽で要求が不可能な願いであっても。
俺はそれを叶えなければならないほどの罪を犯したのだから。

「あぁ、もちろんだ」

返事を聞いた総悟の顔がぱっと晴れやかになり、明るさに俺は思わず顔を背けた。
真っ白でまっすぐで純粋な思い。自分は捨ててしまった、取り戻せない思い。
高揚感に溢れたまま総悟を見やると、総悟は顔を上げて口を開いた。
躊躇い動く口元を見ながら言葉を待つ土方は、視線を外した一瞬に総悟の口元が歪んでいたことには気付かなかった。
頼りにされることが、必要とされることが嬉しくて。

「土方さん、」

それが始まり。