凝視して疲れた目を休ませるために力を込めて瞼を閉じる。
数度瞬くと、暗闇から突如放り出された眩しい太陽の下にも慣れて来た。
少しばかり疲労を感じながら、グスグスと泣いている部下と共にゆっくりと歩く。

「うぅっ、ほんと泣けます、一生を他人のために捧げるなんてっ」
「………」
「アレ?副長にしては珍しく泣いてませんね」
「…そうだな」

この部下と以前見に行った「えいりあんVSやくざ」は感動してスクリーンが見えなかったほどだったのに。
いや、アレを見て泣かないヤツはおかしい。竹内兄貴に憧れないヤツもいないだろう。

「何か意外っすねー。副長は何の映画でも泣くんだと思ってました」
「手前ェ、俺を何だと思ってるんだ?アァ?」
「ヒィッ、すんませんっ」

睨みを利かせてやるとスキンヘッドにも関わらず体を小さくする姿がおかしくて、眼力を強くしてやった。
自分でも、映画を見て泣かないなんて変だと思う。
映画=泣くためにある、と言っても過言ではないと思っているのに、こんなの初めてだ。
伝記物の映画を見たことはあるし、その時は当然泣いた。なのに今日は何でだろうな…。

フッと一瞬向けられた視線に刀を引き抜く。金属が擦れ合い派手に音を立てる。
上からの打撃を受け止めた刀を振り払うと、相手は飛び退いて間合いを取った。
ついてねェなァ。しょうがねー、すぐに終わらせるか。
右手を首に当てながら凝りを解す。ピキピキと青筋を立てるのが見え、大したヤツじゃないことが分かる。
感情的になって冷静さを欠くのはいつだってしちゃなんねェことだ。果たすべき目的があるのなら、尚更。
首から手を外し、手のひらを上に向け、二度指を動かす。

「幕府の犬めがバカにしおってェッ!!」

予想に違わず、大声を上げて突っ込んで来た剣筋は分かりやす過ぎるほどまっすぐで、力を使わずに楽に受け流す。
力はあれど技術には長けていない。いや、技術を上げようとせずに力に頼りきっている、が正しいか?
軽く弾き返すと動揺が刀を通じて伝わってくる。すぐさま大きな間合いを取った相手を鼻で笑う。

「威勢がいいのは言葉だけかァ?」
「くそっ」
「ほら、来いよ。喧嘩売って来たのはそっちだろ?」

口端を吊り上げれば、凝りもせず同じように突っ込んでくる。
諦めの悪いヤツは嫌いじゃねェけどな、無謀って言葉を知っとけよ。

刀のぶつかり合う音を遠くに感じながら、ぼんやりと映画の内容を思い出す。
断片となった映像も同時に脳内に映し出され、青く澄んだ瞳が思い出される。
どこを見ているか分からないようで、強く未来を見つめる目。

そうか、同じなんだ。
俺は神に祈りなどしないし、祈るだけで救われるなんて都合のいいことは思わない。
けど、俺はあの女と同じなんだ。

振り被った刀が獲物を捕らえ、視界には怯えた瞳が映る。
躊躇いも後悔も必要ない。


ただ、前に進むだけ。















映画「マザー・テレサ」を見て。