その言葉を望んでる。


「なぁ、山崎。死んでくれって言ってくれよ」

団子を買って来いとでも言うような気軽さで沖田さんが言った言葉に固まった。
性交後の甘い空気とはまるでそぐわない。聞き間違いか?

「お前がそう言ってくれたら」
「そしたら俺は幸せになれるんだ」

気違い、病気、頭を打った?
精神科に連れて行った方がいいだろうかと真剣に考える。

「あの人のこと、考えなくてすむんだ」

ああ、そういうことか。二人して実らぬ恋心。
俺と沖田さんは似合いなんじゃないかと思う。傷を舐め合って慰め合って。
ぬるま湯に浸って現状維持。何もなくしはしない。罪悪感も最初だけ。少しずつ心が磨耗していくだけ。

「死にたい」

俺もですよ。口には出さずに答える。
甘美な誘いに何度応じそうになったか。たった二文字を夢見てる。
彼に殺されるとしたら、彼は一瞬であろうと自分のことを見てくれるだろうから。
死んだ後も、存在を脳裏に焼き付けて思い出してくれるだろうから。

いつか心が消えてしまえばいい。
あの人に恋焦がれる気持ちも、沖田さんとの逢瀬の度に感じる鈍い痛みも消えてしまえばいい。

俺は知りながら沖田さんが一番嫌がる言葉を口にする。
俺はそれが心の奥底から出ているものではないと知っている。
でも、嘘か建前で構成された中の一%くらいは本当が混じっていると思いたい。
戯れで不毛で救われないこの関係を、沖田さんが壊してくれることを、俺は望んでいるのだから。

「沖田さん、生きてください」

そう言うと沖田さんは舌打ちをして、泣いた。















臆病者たち。