ラスク




「で?」
「だから、食べなって」
「甘ったるいモンは好きじゃねーって言ってんだろ」
「いやいや、このラスクはうまいから。ラスクの常識を覆すから!」

ラスクの常識って何だよ。と思いながらも袋の中に手を入れる自分を誉めてやりたい。
砂糖の粒が指につく不快感をなくそうとすぐ口に放り込むと砂糖の直接的な甘さが口の中に広がる。
噛むたびに舌に広がる甘さをコーヒーで洗い流したい。もちろんブラックで。
コイツの淹れるコーヒーは大量の砂糖と牛乳入り、つまりコーヒー牛乳とかしているから、ダメージ二倍だ。

「甘ェ…」
「な、うまいだろ?」

甘い=うまいには絶対ェ繋がんねーと思うんだけどな…。

「いらねェよ、んな甘ったるいモン。マヨネーズ掛けてもいいなら考えるけど」
「お巡りさーん、甘味の敵がここに!現行犯逮捕してェェ!!」
「警察は俺だっつの」
「あぁ、そうか」

会話が終了して沈黙が流れる。
コイツといるとペースが乱されて疲れる。
ふぅと息を吐いて左手をソファに置く。

「つかもったいねェなぁ」

何がと問う前に指に生暖かい感触。
てらてらと光る舌が指を這い、軌跡を残していく。
反射的に手を引こうとするが、手首を捕まれ叶わない。

人差し指の先から脇を通り、腹をねっとりと舐められ出かけた悲鳴を押し殺す。
爪と指との境をおまけのように唾液が濡らし、口が離れてほっとした途端に指全体がざらりと滑るものに包み込まれる。
根元から指先へと吸われ、体が震える。

「指についた砂糖ってもったいねーじゃん。ごちそうさまでした」

にっこり笑った顔を睨み付ける。上気した頬と火照る体が憎らしい。
これくらいで動揺する自分も、俺に言わせようとしているコイツも、本当に腹が立つ。

「土方君、どうしたの?顔赤いよ?風邪かなー、薬いる?」

この、わざとらしいんだよっ。
先を望む言葉なんて絶対に言ってやるものか。
空となった袋をひっつかみ、逆さにした。ヤツの頭の上で。

「うわわわわっ、何すんのォォ!!」

慌てふためく姿を後目に口角を上げる。
激しく動いたために砂糖が髪から首へぱらぱらと落ちる。

「うわ、気持ち悪っ。中入って来たっ」

ギャーギャー騒ぐのは小さな子供みたいだ。
体は大人で中味は子供か?ん、何か聞き覚えあんな。まぁいいか。
大の大人なところ、見せてみろよ。
首筋に付いた、光を反射して輝く砂糖を舐め取る。
ずり下がった頭を即座に掴む。
結晶が手にまとわりついて気持ち悪いが、文字通り目をつぶって口をぶつける。

言葉にはしねーから、俺の言いてェこと自分で考えろ。

甘ったるい砂糖は、やっぱり嫌いだ。
でもコーヒー牛乳なら譲歩してやってもいい。
だって、まるで俺たちみてェじゃねーか。
混ざって、混ざって、それでも混ざり足りないなんてどんだけだよとは思うが、
砂糖には麻薬に似た効能があるらしいし、コーヒーは人を興奮させる。
混ざり合って化学反応。いや、恋愛反応?
あぁ、本当に頭をやられたのかもしれない。責任取れバカヤロー。
やっぱり、言葉になんかしてやらねーけど。

絡みつく甘さが、今だけは心地よく感じた。










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