こちら大江戸ラジオ相談室
俺の恋人の話なんですが、手料理食べたいとダメ元で言ったら了承してくれて、休暇の日に俺の家で作ってくれることになったんです。
やっぱり、恋人に料理作って貰うのは男の夢じゃないですか。
男のロマンの裸エプロンはさすがにしてくれなかったけど。
普段は包丁なんて持つ機会がないっつってたけど、器用なヤツだから簡単な料理なら作れるって、と丸め込んだんです。
俺とアイツは似てるところがあって、俺は割と料理するし、凝ったモンも作れるんですよ。凝り過ぎてたまに引かれますけど。
あっちも悪くない様子だったし、楽しみに約束の日を待ってたんです。
にやにやして周りのヤツから気持ち悪いって言われるくらい。
で、当日ですよ。シャツを捲った腕や、エプロンしてる姿に見とれながら待ってました。
まさか、ねェ。テレビで見るような料理、実際に見るとは思わないでしょう?
口が動きませんでした。愛エプの収録中ですか、って突っ込みたかったです。
絶句してる俺に気付いて形はちょっと悪ィけど味はいいはずだから、っつーんです。
ちょっと?これがちょっとか?と思いながら、食べるしかないじゃないですか。
料理で失神って、漫画の中の話だと思ってました。
料理じゃなかったです。むしろ食べ物じゃなかった。
まぁ、起きたら介抱してくれてて嬉しかったんですけど、皿にまだ乗ってるんですね、アレが。
しかもアレの上に何か掛かってるんですね。アレと同じ厚みで。聞いてみたらですね、こう言ったんですよ。
マヨネーズ掛け忘れた
と。マヨネーズがなかったせいで俺が失神したと思ってるんです。
今度は+マヨされたアレを食べて、花畑を見て来ました。
これは怒らなきゃいけねェだろって、言ったら、逆ギレですよ?しまいには、
どんな料理でもマヨネーズを掛ければ何とかなるんだよ!マヨネーズ is OKだ!
と叫び出して。いや、ならないだろ。
しかもマヨネーズじゃなくてラブだろ、と思ってですね、ラブの素晴らしさを教えてあげました。
アレでマヨネーズがトラウマになってくれればいいんですが…どうでしょうねェ。
盛り上がってましたからね、マヨネーズプレイ。今度からする度に強要されそうで、困ってるんです。
俺はどうしたらいいですか?
「という投稿が、昨日の大江戸ラジオ相談室に歌舞伎町のSさんからされてやした」
「……それが?」
「いえ、別に。ただ大変そうだなぁと思いやして。まっずい飯食わされるなんて同情しちまいやすゼ」
「…別に料理が下手だっていいだろ。そいつ、投稿者は料理うまいんだろ?」
「へぇ。でも恋人の手料理食べたいと思いますがね」
「………」
「最初で最後の手料理があんなんって、ねェ」
「……なら、その彼氏が彼女に料理を教えればいいだろ!」
「…教わりたいんですかィ」
「違っ、俺はただ一般的な見解を述べただけだ!」
「そうですかィ。あ、マヨネーズプレイはよかったですかィ?」
「え、あぁ」
「(よかったんだ…)」
「って、手前ェ、何言わせやがる!」
「さーて仕事仕事ー忙しいなー」
キャンキャンとうるさい土方さんを置いて行くと、門のところで旦那と会った。
「土方さんなら自室にいますゼ」
「おぅ、サンキュー」
「あ、今は台所かもしれやせん」
「…だい、どころ?」
「ええ、練習中かと」
とんとんと切る真似をすると苦汁を飲んだ顔になった。
トラウマになってますゼ、土方さん。
「マジで…」
「嫌なら早く行った方がいいですゼィ。もしくは」
「もしくは?」
「教えてあげるとか」
「……ありがとう、沖田君!」
「礼は土方さんの弱みでいいですゼ」
「お前、えげつねェな」
「そうですかねィ?恋のキューピットですゼ?」
「ま、あんがと。そろそろ行くわ。もうお花畑は懲り懲りだから」
「頑張ってくだせェ」
ひらひらと振られる手を見て、門を出る。
空は青くてちょうどいい気温で、風が柔らかく吹いている。
絶好の昼寝日和だ。一日一善したんだからいいだろィ。ふわわと欠伸をする。
今日も江戸の町は平和だ。
こちら大江戸ラジオ相談室。
あなたのお悩み、お待ちしております。