お味はいかが?



「さて、全員集まったようだな。会議を始めよう」

八人が椅子に腰掛ける。
独特の形をした机は、誰が優位とも決められていない。
全員同じ立場で意見するのに、ぴったりの形だ。

「今週は誰を殺す?」
「前回はいつもより多かったからな」
「二人位でいいんじゃないか?」
「では、この二名でいいな」
「異議なし」

既に慣れてきたこの異常な会議。
最初こそ抵抗を感じたものの、すぐに慣れた。
会議をして殺す者を決める。
そうすれば、自らの手を汚す必要もなく死んでいく。

異様だ、と思う。
抜けれない迷路。出口の先には殺人鬼が待っている。
ぐるぐると回っていればそれなりの地位も得られる。
けれど、身体が慣れても頭がまだ慣れない。
頭の何処かでこれに慣れてはいけないと警告が鳴り響いている。
八人ともそうだろう。それなのに会議は続く。
異様だ。

「何だか今日は早く決まったな」
「あ、そうだ。これ新しく発売するコーヒーなんだけどさ、試飲してよ」

いつの間に段ボール箱なんて持ち込んでたんだ。
ベージュ、ピンク、水色を基調としたデザインのラベルが貼ってある。

「コーヒー?」
「うん、感想教えて欲しいんだ」
「私は遠慮しておく」
「俺はあんまり好きじゃない」
「ちょうど喉が渇いていたんだ、くれ」

三堂は缶のプルタブを開けると奈南川に差し出した。
よほど乾いていたのか、一気に缶の中身がなくなる。

「どう?」
「…さほど苦くないな。女性向けに売り出すのか?」
「うん。渋みを押さえて甘めにしてあるのが売り」
「じゃあ、僕も。それなら飲めそうだ」
「葉鳥は苦い物苦手だもんねー」
「う、うるさいな!」

渡されたコーヒーをやけくそに流し込む。
緊張が解けていくようだ。一週間の疲れが溜まっていたからかもしれない。

「ん、旨いな」
「ありがと。これなら太鼓判で売り出せるな。キャッチコピーは、そうだな。
『味覚が子供の葉鳥部長でも飲める、甘〜いコーヒー』なんてどうだ?」
「………」
「はははっ、嘘に決まってるじゃん。本気にしちゃってー」

嘘に聞こえない。
三堂の言うことは、本当が嘘に聞こえて、嘘が本当に聞こえる。
世渡り上手だな。

「火口、今日はやけに大人しいじゃないか」
「三堂の笑顔が邪魔で喋る気にもならない。どっか行け」
「火口ー、酷いよー」

三堂は目をいつもの1.5倍大きくして、潤ませた。
うるうる、とチワワの様にし、火口に力の限り抱きついた。
いつものことだ。火口もそろそろ慣れればいいのに。

「うおっ、お前、何してんだよ!このホモっ」
「火口、大好きー」
「俺まで巻き込むな!ほら、奈南川。この馬鹿止めろ!!」
「………」
「ん?」
「奈南川?」

問いかけても下を俯いている奈南川に疑問を持った火口は問いかけた。
返事はなく、身体が小刻みに震えている。

「おい、風邪でも引いたのか?三堂に看病してもらえよ」

前の痴態に関して怒るかとも思ったが、奈南川は口を開いて、噤(つぐ)んだ。
何か喋りたそうにしているのだが、言葉になる前に口を閉じてしまう。
突如、奈南川の身体が大きく揺れると、身体は椅子から転げ落ちた。

「え?」
「奈南川!?」

異常な光景に三堂以外の六人が立ち上がる。
まさか心臓発作?
一抹の不安が頭を過ぎる。

「おい、どうしたんだよ」
「大…丈夫、だ…」
「どう見たって大丈夫じゃない。病院に行った方が」
「平気、だ。すまない」

自分より身長は高いが、仮眠室か保健室には連れて行けるだろう。
葉鳥は床に座り込んだ奈南川を起こそうと、腕を引っ張った。
よく考えれば、奈南川の所に三堂が真っ先に来ないなんてことがおかしかったのに。

「引っ張るよ。せーのっ」
「んあっ」
「……………」

沈黙。
沈黙。
まだ沈黙。

「…三堂、奈南川に何したんだよ…」
「いい感じじゃない?」
「何がだよ。会議中に変なことするなよな!」
「僕が言い出したんじゃないって」
「…へ?三堂(変態)じゃないの?」

変態、と付いてしまうのはしょうがないだろう。前科ありだし。
三堂=変態。変態=三堂。という図が葉鳥の頭の中には出来ている。

「( )が気になったけど、まあいいや。今回は火口だから」
「はあ!?お前までそっち系になったのか?」

三堂のことをホモだと言って、嫌っていた火口が三堂に加担していたなんて。

「なってねぇよ。新しく作った試作品が、なかなか使ってくれる奴がいなくてな。
結婚してると訴えられるかもしれないし、三堂ならそこら辺の女に話しかければすぐだと思って。
今使うとは思ってなかったけど」

なにやら不穏な言葉が聞こえてきた。
訴えられる?
火口、お前一体何を作ったんだ?

「ひ、火口、ちなみに試作品ってのは」

「強力な媚薬」

「………」

そんな物、三堂に渡したらどうなるか分かってるじゃないか。
この変態がそこらの女なんかに使うわけないじゃないか。
大事に大事に、奈南川に使うに決まってるじゃないか!

「火口、お前馬鹿か?」
「馬鹿?しょうがねぇだろ。他にいないんだから。お前使うわけないだろ」
「う、ぼ、僕は、そりゃあまあ…」
「まあ、結婚してる奴は無理だろうな。ちょっと効き目が強過ぎる」
「…どれだけ強いんだ?」

訴えられる、という言葉に疑問を感じていた。
媚薬なんて使う趣味はないけれど、興味はある。

「まあ、簡単に言えば…触られただけでイク」

ちょっと待って下さい。
ちょっと待って、うん、まだ頭が動かない。
えーと、あ、うん、触られただけで何だって?
よく聞こえなかったなー。

「葉鳥、おい、行っちゃってるぞ」
「え?あ、ああ」

樹多に話しかけられ、やっと正常になった。
頭がオーバーヒートした。いや、強制終了(シャットダウン)?
てか、待て。それだったら、奈南川を起こそうとした時に俺は…。

「うわ……」

マジで?
奈南川のズボンは股間が水を零した様にぐっしょりと濡れている。
火口の話からそれが何なのか、容易に分かってしまう。

「奈南川、ごめん」

ふるふると顔が力なく振られる。
身体が震えているが、薬の為か、恥ずかしさの為か分からない。
よく見れば、顔は林檎の様に赤く染まっている。

「大丈夫?立てる?」
「う………」

力の入らない足で無理に立とうとしたため、奈南川の身体はバランスを崩した。
危ない!!
慌てて床と正面衝突しようとしている身体を抱きかかえた。
直前に言われたことも忘れて。

「ひあっ」

白い喉元を伸ばして、奈南川は再び嬌声を上げた。
確かめるまでもなかった。
ど、どうしよう。動けない。下手に動いたらまた奈南川が…。
くたりともたれ掛かってきた奈南川を前に固まる。

「ひ、火口ぃ」
「無理」
「三堂っ」
「んー、たまには遠くから眺めるのもいいね」

後の人に聞いても結果は同じだろう。
どうしろって言うんだよ!
泣きそうになりながら身体を動かさないように精一杯神経を研ぎ澄ます。

「……はあ…」
「!!」

吐息が耳に当たり、びくんと身体が跳ねてしまった。
反射だったんだ。しょうがないじゃないか。

「っあ…う…」

お、俺が悪いんじゃない。悪いのは火口や三堂だ。
てか、いい声出すよな。透き通っててきれいな声だ。
って何考えてる、僕!

「三堂!どうにかしろよ、お前の問題だろ!」
「えー。というか葉鳥」
「何だよ!」
「怒鳴るとナミが辛そうだよ」
「あっ!」

奈南川を見ると息は上がっていて、呼吸するのも辛そうだ。
懸命にスーツを掴んでいるが、今にも崩れ落ちてしまいそうだ。

「ああ、ごめん。三堂!」
「ほら、揺らすと可哀そう」

1、三堂に投げ飛ばす
2、火口に押し付ける
3、押し倒す
どうする、どうする、俺!(某CMより)

「どうする、どうする、俺!」
「言ってんの、お前かよ!」

全力で三堂に突っ込む。
奈南川の身体が再び揺れる。

「どうすりゃいいんだよ」
「そりゃ3番でしょ」
「何言っ…」

文を言い終わる前に口を止めてしまった。
開いた口が塞がらない、とはこういう状況だろうか。
奈南川が俺に身体を摺り寄せてくる。いや、身体というか、あそこをっ。

「な、奈南、川?」
「も…もぅ、無理ぃっ…」
「いや三堂に、三堂にしてもらえ」
「僕は別にいいよ。二人で楽しみなよ」

何言って、という声も言う前に消えた。
奈南川のあそこが僕のあそこに当たって…ま、まずいぞ、これは。

「ふあっ、ん、んっ」
「奈南川、やめろっ…んぅっ!?」

どくん、と心臓が大きく波打った。
びくりと身体が震える。身体の芯が熱くなってくる。

「な、何っ、んあっ」
「は、とりぃっ、助け、っ」
「あっ、ひう…や、やめ」

うまく息が出来ない。
痙攣してうまく動かせない。自分の身体じゃないみたいだ。
燃えそうになる。酒でも飲んだみたいだ。

「葉鳥、どうだ?」
「みどっ、おま、何、し、ひああっ」
「コーヒーに混ぜといたんだよ。退行性だからちょうどいいだろ?」
「何が、いいんだ、ぅあっ」
「お前だったら何の疑いもせず飲むだろうと思ってさ」

確かに後の四人もコーヒーを貰っていたが、理由をつけて飲んでいなかった。
三堂の性格を熟知していたからだろう。
僕と奈南川だけがまんまと騙されたのか。

「解毒、剤はっ?」
「ない。作ったばっかなんだから、当たり前だろ」
「なっ、あ、んぅうっ」

もう、どちらが動いているのか分からない。
楽になりたい。
何度イっても身体に疲労が溜まっていくばかりで、楽にならない。

「葉鳥、やり過ぎるとイけなくなって辛いよ?」
「そう、思って、ん、らあっ、助け、ろ」
「んー、じゃあ、はい」

右手に固い感触を感じる。棒で殴って奈南川を止めろとでも?
三堂がそんなこと許すわけないよな。一体なんだ?
何の心構えもなく、それを見てしまった。

「なっ」

ピンクのプラスチックで出来たグロテクスな形。
男の象徴が二つ組み合わされている。
落とさなかったのを褒めて欲しい位だ。

「な、何だ、はっ…あうっ、これ!」
「バイブ。葉鳥って受けっぽいじゃん。奈南川も受けだしさ。両方突っ込めるっつったらそれだろ?」
「…っ……何、言って…んあっ」
「二人並んでると百合みたいだし。ぴったりだよ」

笑顔で言うべき台詞じゃないだろ!
反論したいが、口からは唾液が溢れ出て、言葉にならない。
ひっきりなしに嬌声が息と共に微かに漏れるだけだ。

「じゃあな、葉鳥」
「失礼する」
「さあ、帰るか」
「ああ」

次々と椅子を立って行く。
見捨てないでくれ!

「葉鳥ー、楽しんでねー」

誰か助けて―――!!!



「うわああああ!!!」

目を開けると、そこには黒い瞳があった。

「へ?…奈南川?」
「ああ。疲労だそうだ。根を詰めすぎだ」
「そうか」

月曜から走り回ったり、残業で疲れていたんだった。
倒れたというのも今だ他人事のように感じるが、納得は出来る。

「ごめん」
「それより大丈夫か?魘(うな)されていたが」
「え?」

嫌な感じは覚えている。背中には冷たい汗が張り付いている。
悪夢を見たのか?まったく記憶にない。
疲労が溜まり過ぎて変な夢を見たのだろうか。

「…覚えてないな」
「ならいい。会議、出られるか?」
「あ、うん」

ジャケットに袖を通し、手馴れた調子でするするとネクタイを締める。
鎧でも着るかのように。本当に着れたらいいのに。
キラの前では何の役にも立たないけれど。
油断したら殺される。あそこは戦場だ。

「よし、行くか」
「ああ」

僕はまだ、迷路から抜け出せない。










奈南川と葉鳥は受け×受けをしてればいいと思う。
まだ三堂と奈南川しかくっついてません。
これ位なら大丈夫、ですよね?
(12/30改正)
(3/16改正 俺→僕に)